退職金で海の近くに別荘を買った。
当初は子供が家族を連れて別荘に遊びに来ていたのだが、孫が受験勉強で忙しくなると来なくなった。
私、「ねえ、行こう?」
妻、「貴方一人で行って来て」
私、「何もしなくて良いから、付いて来てくれるだけで良いから」
妻、「遠いから嫌だ」
自宅から別荘までは車で2時間、渋る妻を説得し付いて来てもらった。
妻、「まだ掛かるの?」
2時間で行けるのは道が空いている時、2時間で行けたことは過去に1度だけ、毎回、渋滞にはまる。
4時間掛けて別荘に着くと
妻、「私は嫌だからね」
私、「分かってる」
妻を車に残し、私は別荘の敷地の草刈りを始めた、なぜなら、草刈りをしないと別荘に辿り着かないから。
草刈りの所要時間は40分。
妻、「まだなの?トイレに行きたいんだけど」
私、「オカシイな?」
妻、「何をしているの?草刈りは終わったんでしょ!?」
私、「ちょっと待って、探しているから」
妻、「ねえ、何を探しているの?イライラするから言って」
私、「無いんだ?」
妻、「何が?」
私、「カギ」
妻、「カギなら車に刺さってるわよ」
私、「車のカギじゃないよ、別荘のカギだよ」
妻、「貴方、まさか・・・」
「まさか」は的中してしまった。
私、「どうしよう?」
妻、「どうしようじゃないわよ、カギがなければ別荘に入れないじゃない」
窓を割って入れば防犯センサーが反応してしまう。
男なら立ちションが出来るのだが、草刈りをしてしまったため、妻に「その辺でオシッコをして」とは言えない。
私、「別荘のカギを持ってないよね?」
妻、「私が持ってるわけないでしょ!」
家に別荘のカギを取りに帰るとなると、道が渋滞してなくても往復で4時間以上は掛かる。
私、「警備会社に預けているカギを持って来てもらおうか?」
妻、「恥ずかしいからヤメて」
妻がそう言うのは、以前もカギを持って来るのを忘れて、警備会社にお世話になったことがあるから。
となると、選択肢は1つしか残っておらず、鍵屋さんに来てもらった。
海で泳いでいてカギを失くす、塩害でカギが錆び付くなど、海の近くの別荘はカギトラブルは珍しくなく、ネットで調べた鍵屋さんはスグに来てくれたのだが、その日を最後に妻は別荘に来なくなりました。